※R-18






 苦しそうな顔をして形のよい眉をしかめながら、御幸は汚い便所の床に膝をついている。普段なら進んではやらないようなことだと降谷は思う。あれもこれも全部。あんなに飄々としていて、ミットをかぶっているときは堂々として、ずっと僕のあこがれである御幸先輩が。僕の汚いものを口にして、唇の端から先走りやら唾液やらを溢れさせているのだ。その事実だけで頭がどうにかなりそうだった。
「ん…」
 御幸は、時々鼻からぬけるような吐息をもらしては伏せたまつげを揺らした。角度を変え頭を動かしたり、舌の先で挑発するように舐め取ったり、どこからこんなことを覚えてきたのだろうと降谷の疑問がひとつ増える。
 手持ちぶさたな指で御幸の髪を絡め取って遊び、そうすると増す彼の吐息と体の反応をおもしろがって、またその艶やかな髪を降谷は撫でた。するりととくようにするとぴくぴくと御幸の肩が震える。かなり色の抜けた茶色の髪は見た目と同様につるつると触り心地がよいけれど、日に焼けているのかなんだか傷んでいる気もした。量の多い髪を指で滑らせたり頭皮を撫でるように指をくぐらせたり、そうしながら降谷は自らの熱さを感じていた。

「…降谷、それやめろ」
 急に口が離れたと思えば、御幸が低いトーンで告げる。
「髪のこと?」
「そうだよ」
「なんでですか?」
「…集中できないから」
 いつもどおりな素直に疑問をぶつけてくる降谷の姿勢に、いつもは笑って答える御幸の声は違って静かなままだ。
「嘘。先輩気持ちいいくせに」
 僕もう我慢できないんで早くしてください、そうやって降谷が顔を押し付けるようにすると、御幸は何も言わず目の前のものを口に含んだ。

 また一から丁寧に行為を再開する自らの先輩の姿を見て、降谷がごくりと喉を鳴らす。いつも感情の表れが小さい降谷の、男として当然だが快感には従順になっているようすを見るのが御幸は好きだった。だからこそ自ら進んでこういった行為をしている節もあるかもしれない、と、みだらな行為に精を出しながら、冷静に考える自分を嘲笑する。いつもこんなふうに素直ならかわいいのに。そんな御幸をよそに降谷は、この小さな空間に荒い鼻息だけが響くことに痺れを切らしたのか、とうとう口を開いた。
「今日はどうしたんですか?」
「何か嫌なことでもあったの?」
 矢継ぎ早に質問を繰り出すので、御幸は口を離しながら少し笑って言う。
「お前、早くして欲しいのかして欲しくないのかどっちなの」
「ねえ、答えてください」
「だめ。終わってからな」
 それを口に咥えると、降谷があ、と短く声を発し、髪を撫でる指が揺れた。降谷が頭上で不機嫌になっているのが少しばかり感じられるけれど、御幸はさっぱり無視をする。乱暴にされるかもと身構えた御幸だったが、頬に彼の体温を感じて思わずびくりと肩を震わせた。それはとてもぬるい降谷の指だった。降谷はするすると指先で頬をなぞり、まるで御幸の口淫に返事をするかのようにやわらかな手つきで肌をたどる。なんか手癖が悪ぃなぁと御幸は内心笑った。でもこいつはぜんぶ無意識なんだろうな。
 それから降谷は徐々に指先を目尻に近づけ、眼鏡の柄にひっかけ遊ぶように揺らす。視界がぐらぐらと揺れるいたずらに、うざったいと言うように上げた御幸の手のひらをとって、きゅうと指を絡ませた。目を閉じた御幸もそのままひっそりと、こたえるように手を絡ませる。汗ばんだ御幸の手のひらは降谷にとって新鮮だった。硬いけれど優しいその指先が心地よく、御幸は頬が徐々に上気してゆくのがわかった。

 御幸が大きく音を立て口で刺激し、その性急な行為に降谷はいっそう自身の欲の膨らみを感じた。御幸の額が汗ばんでいるのが見え、野球をしているとき以外では滅多にそういうことのない光景にも降谷は自然と興奮を覚える。その髪をかきあげ、べたついたおでこにでさえも愛おしい。もう少し体が柔らかければそこに口づけできるのに。
「御幸先輩…、そろそろ僕、」
 繋いだ指の力が強くなり、その痛さかまたは口内の圧迫の苦しさに顔をしかめた御幸は、目線を送り返事をする。
「…っ……」
「んんっ…」
 それが合図だったように、頬に添えられた親指にぐっと力を込められ、降谷がかすかに呻いたと思ったその瞬間、口の中に勢いよく射精され喉の奥から声が漏れる。
 口内にひろがったその生ぬるい液をトイレットペーパーに吐き出し、口元に伝ったものもきれいに拭き取ると、手際良くそれを便器へと捨てた。始まりから終わりまであっけないものだと降谷は常に思う。
「バテてんじゃねーよ」
 そのからかうような言葉を無視して降谷はさらりと言い放つ。
「終わりましたよ」
 立ち上がった御幸を降谷が見上げている珍しい二人の目線に何かを思う間も無く、彼の言葉の意味に気づかされすこしげんなりした。
「もうどうだっていいだろ?」
「よくありません」
 いつもみたくに放り投げるように言っても降谷の追求はとまらないだろう、そう知っている御幸は腰を曲げその不満そうな顔に近づき、唇へそっと舌を滑り込ませた。
 明らかに不満そうな顔がだんだん細められる瞳の間から覗けたけれど、そんなものはぴたりと目をつむってしまえば見えなくなる。そして、おそらく長く続くだろう余韻が終われば、きっと二人ともそんなことは忘れるに決まってる。手探りでレバーに手を伸ばしていると、深く舌を絡ませてきた降谷の機嫌が戻ったことがわかった。離れた指が再び絡まる。こいつは本当に単純だ。小さく笑いながら、ようやく見つかったレバーをぐっと引いた。







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140210











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