昼時に屯所で、朝の見回りも終わり暇を持て余し、ごろんと横たわっていた。てきとうにチャンネルをまわしてみても、テレビではどれも決まり切ったかのようにワイドショーを流している。あ〜あ、と、特に憂鬱なことがあるわけではないけれど、ため息を吐いて畳の上に横たわるアイマスクを手繰り寄せた。眠るつもりはなかったがあまりにも暇なので眠る以外することがない。仕方なくアイマスクを顔に被せながらふとその向こうに見えるテレビに意識をうつすと、「地球のふち」なんてテロップが見えて、眠気目に真っ青なそれがうつっていた。しばらくぼんやりとそれを見ていたが、なんだか眠気が一気に押し寄せてきたのでアイマスク完全にかぶって視界を遮ってしまった。地球のふち、か。俺は宇宙にすら行ったことがないや。

 暇をもらっても帰る家もないし、行きたいと思う場所もないし、女もいないし、結局毎日三百六十五日一年中、俺は真選組の屯所にいる。生まれてこの方、俺は武州と屯所から外に出たことがない。ましてや宇宙なんかに行ったことなんてない。今の世の中、宇宙なんかあんなに簡単に行けるのにね。

 ドス、と背中を蹴られる感覚がして、目が覚める。その勢いのままうつ伏せに転がると、少し息が苦しくなった。確か、宇宙って酸素がなかったような。
「おい、てめェ昼間から何熟睡かましてやがんだ」
 やはりこんな荒い起こし方をしてきたのは思っていた人物で、逆らうのも面倒臭いし二度寝ができそうな眠気もないしで、俺は起きることにする。アイマスクをしたままぐったりと体の重さを感じて起き上がる。頭がぼうっとする。
「ねェ、土方さん」
「あぁ?」
 煙草をくわえて喋っているのか、少しくぐもった声が頭上から聞こえた。
「土方さんは宇宙って行ったことありますかィ」
 ふー、と息を吐く細い音が聞こえ、ああこの人は今、こいついきなり何言いやがるんだ寝ぼけてんのかとでも思ってるんだろうなと、煙の漂う空気を見つめ思う。
 「…行ったことねえけど」
 だからなんなんだ、といつもなら一言二言暴言でも吐いてやりたいその声色にも何も感じなかった。やっぱりまだ、頭が寝ぼけてるのかも。
 アイマスクの裏から見えるものは当たり前のようにアイマスクの裏の黒い布だ。ごわごわしている。ていうか、この距離ではそれが布なのかもわからないただの黒。
 ぼうっとした頭を覚醒させようと二三度目を閉じて開けてを繰り返すと、パチパチといろんな色のひかりが目の中で弾けた。まるで星みたいだ。なんか宇宙みたいだな、とも思った。何度も言うが宇宙には言ったことがない。嗚呼、いつかここを出て、誰も居ない、土方さんなんか居ない、宇宙へ行ってみたい。





ア イ マ ス ク の 裏 側 の 宇 宙




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