いつもみる夢がある。それは二種類ある。交代でみるときもあれば一つを何日も続いてみせられたりする。その夢は不規則だ。
 一つ目の夢。彼の黒い背中が、遠ざかっていく。そしてそのむこうには生き物の大きな牙がむきだしの口が待ち構えていて、それでも着いてくるな追いかけてくるな、と物語るようなその背中はとても冷たかった。足が石のように重く動かなくて俺は手を伸ばすことしかできなくて、サスケ、サスケ、名前を何百回口にしても音にならなくて、彼は行ってしまう。そうして結局ガブリと、自ら飲み込まれるように口の中に消えてしまって。ここで目が覚める。
 二つ目の夢。彼はここに帰ってくる。夜だ。この夢の中でも俺の足は使い物にならない。声だって響かない。でも涙を流す。豪雨のように流して流して、足元には今まで流した量だけの涙の水たまりができていた。彼は出て行った時とかわらない姿で全身を真っ黒に、ぶらり垂れ下がった手のひらを血で真っ赤にさせて力なく歩いてくる。その真っ赤な血だけが明るく光っている。ようやく顔が確認できるところまで歩いてきたサスケのその目を見ようとして、目が覚める。
 俺はどちらの夢を見たときも飛び上がるように起きて季節関係なくだらだらと大量の汗を流している。夢か現実か、理解できないほど頭がぐるぐる複雑に回って呼吸が荒くなる。要するにどちらも俺の中では悪夢に分類されるみたいだ。
 たまには第七班、四人で笑っていたときの夢だってみる。俺はバカなことをして、サクラちゃんに怒鳴られて、カカシ先生は口布の下で笑って、サスケに鼻で笑われて。そういう夢をみて起きた朝は胸とかお腹がきゅっとつままれたみたいに痛くなる。汗はかかないけれどやっぱり悪夢と同じようにやりきれない不安定な脱力感に支配されて、どっと疲れてしまうのだ。起きたばかりだというのに。
 夢の中に、あのとき見上げた何年かぶりのサスケは現れない。どこか俺の知らない場所で俺たちと同じように成長して、背も顔も大人びた彼は。いつも夢の中のサスケは昔の子どものままだ。不器用ながらも純粋で恐れも過ちも喜びも知っていた。
 今だってそうなのかもしれない。見た目は違っても、昔と心の中はなんら変わりないのかもしれない。俺がそれを知る術は今のところないけれど。
 今日もまた現れないサスケに、悔しくて目覚めた俺はうつぶせにぎゅっと布団を握りしめた。なぁサスケ、せめて夢の中だけでいいから俺の前に現れてはくれないか?












120810










inserted by FC2 system